音楽修辞学

バロック時代の音楽観


さて、情感、アフェクトということを考える前に、

バロック時代における、音楽観、というものを考えてみます。

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キルヒャー(1602-80)
によると、音楽と人間の心の中に、

一定の数字的比例が共有されるために、

音楽は、ある情念を聞き手の心に呼び起こすことができる

と考えていました。

 

さまざまな存在の原理である

「数」は、当時感情の原理でもあったそうです。

 


世界が神の知恵の演技する劇場にたとえられ、

その世界が同時に、数学的比例を共通項として、

音楽に類比されている。

 

世界の構造原理としての『ハルモニア』の具現であるという意味で、

『世界劇場』は音楽と、本質を共有する。

またそれは、世界を神の楽器とみなすことの根拠にもなりうる。

 

こんな思想がバロック時代にはありました。

最初の写真は、

キルヒャーの《音楽汎論》(1650)にあらわれる、

神の弾く世界オルガン』


うーん、なんとなく解ったような、解らないような・・・


いずれにしても、はっきりしているのは、

300年以上前のヨーロッパにおいて、
音楽がどのような存在であったか、というと、
「今とはぜんぜん違う」ということですよね。あたりまえですけど。


ここで重要なことは、バロックの時代~ロマン派まで、ほとんどの場合、
音楽をつくる人=演奏する人 だったということ。

なので、今日その時代の曲演奏する私たちとしては、
昔、音楽家が、どんなことを音楽に対して考えていたか、
を知らないと、まったく的外れの演奏になってしまう可能性もある、
ということですね。


以前にある講習会で指揮者の方が、
現代の音楽家として当然読んでおくべき本、として

*クヴァンツ フルート奏法試論
*エマニュエル・バッハ 正しいクラヴィア奏法
*レオポルト・モーツァルト バイオリン奏法

の3つをあげられていました。


古い時代の人の書いた本が「どのように」役に立つのか?

内容を考えてみると、
当時の有名な作曲家、音楽家としての彼らから、
「音楽を学ぶ人、演奏する人」への助言
という趣が強く出ていると思います。

指使い、装飾、音楽用語として共通語になりつつあった
イタリア語の言葉について、
アーティキュレーションについて、
そして、音楽家としての心得など。


たぶん、その頃から、自分の作品を、
ぜんぜん見も知らない人が演奏する、
というような状況が出てきたのでしょうか。

このような本を書く必要性を
感じるような時代になっていったのかな、
と想像してみました。

であれば、今日の私たちも、
立場としては同じようなものですから、
当然読んでおかないといけない、というわけですね。


さて、そこでキーワードのように出てくる言葉が、

アフェクト

アフェクト=情感 という言葉は、
実はデカルトの著書の中に出てくる言葉だそうです。

この言葉が音楽とどのように関わってくるのか、
は先にあげた3人の音楽家の本などから探ってみたいと思います。

(つづく)