正しいクラヴィーア奏法


C.P.Eバッハの、正しいクラヴィーア奏法は、訳者序文によると、18世紀のもっとも代表的なクラヴィーア教本で、ウィーン古典派の人たちの間でもなお、模範的な教本とみなされていたそうです。


モーツァルトはこれで装飾の練習をし、ベートーヴェンはツェルニーを教えた。。。


これだけでも、なんとなく、読んでみたいな~と思いませんか?

こういう本が、日本語に訳されて現代の私たちが読める、ということは、本当に幸せなことだなと思います。


今回、本を読んでみて、まず思ったことは、クラヴィーア(この場合、おそらくフォルテピアノ、クラヴィコードを含む広義の鍵盤楽器)は、まだまだ新しく、しだいに脚光をあびつつあった楽器で、今の私たちがピアノに対して感じているほどの位置にはなかっのだなということです。


エマニュエル・バッハはまず最初に、クラヴィーアという楽器の長所と、しかし、それを演奏するものに対して求められる多大な要求、困難さについて書いています。

 

曰く、
「良い演奏表現の規則に即して演奏する技量」を持っているだけでなく、

・あらゆる種類のファンタジー(即興演奏)を行うこと、
・与えられた楽句を、厳格な和声と旋律の規則にしたがって即座に労作する
・どの調の曲でもらくらくと演奏し、瞬時に、しかも誤りなしに移調する
・自分の楽器のために作曲された曲であるなしにかかわらず、即座に初見で演奏する
(たとえば、バイオリンのソロの曲をクラヴィーアで演奏する、歌の曲を歌と伴奏を同時に演奏するとかでしょうか?)

 
・通奏低音の理論を完全に掌握する
などなど・・・


しかも、それを、1度も触った事のない楽器でやらなければならない。

読んでいるだけで、やれやれ、何て大変なんだ、という気持ちになってきますね(~_~)

彼は、このような困難にもかかわらず、クラヴィーア愛好家が増え続けていること、また、良くない教師の存在についても言及しています。そして、初心者でもまた、この本で勉強することで、短期間で上達するであろう、と述べています。

この本の書かれたのは、父セバスチャンが亡くなった3年後の1753年。

 

イタリアでフォルテピアノが初めて作られてから約50年。1756年にはモーツァルトが生まれています。有名なマンハイムのオーケストラはまもなく最盛期をむかえるというこの時代、、音楽もバロックから古典へ、鍵盤楽器もチェンバロからフォルテピアノへ、と大きく移り変わっていく頃だったわけですね。